『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』
『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』を読みました。
「疲れ知らずになりたい」という邪な気持ちで手に取ったわけですが、得られた結論は「疲れは必要であり、疲れ知らずになることはできない」ということでした。
本書は「疲労」と「疲労感」を分けて捉えるところからはじまります。「疲労感」を軽減する方法はいくつかあり、たとえばエナジードリンクに含まれる抗酸化成分によって疲労感は抑えられる、ということでした。しかし、これは単なる疲労感の抑制であり、内蔵や体の筋繊維は通常通り疲労を蓄積するそうです。したがって、エナジードリンクの過剰摂取によって真の疲労に気づかず、体組織の障害や突然死にいたる可能性もあるとのこと。
また、疲労そのものはビタミンB1が欠乏すると解消しない、とありました。「eIF2α」という酵素にリンがくっつくことが疲労であり、それを剥がす働きをする酵素を出すには軽い運動が必要、ということが書かれていました。重い疲労を回復するため、軽い疲労が必要というのは興味深い話でした。
しかし、残念ながら「疲れ知らず」になるために役立つ知識としてはここまででした。
後半では「病的疲労」としてうつ病やコロナウイルス後遺症の話がありました。僕の興味の範疇ではなかったのですが、いずれも原因についてクリアに説明されており「そこまでわかっているものなのか」と思いました。
余談ですが、会社の人事は「ストレス耐性の高い人 (= うつ病になりにくい)」を選り好みすべきでない、という話がありました。ストレス耐性の高い人は「対人関係に極めて鈍感で戦力にならない」とのこと。
そんなことをしたら、真面目で、仕事熱心で、献身的で、責任感が強い、おおいに会社のためになってくれる人が入ってこなくなるからです。
だそうです。
ところで、本書は「講談社ブルーバックス」のシリーズだけあり、内容に手抜きがなく、記述の随所に科学的な裏付けがありました。これは読み応えがあると同時に、自分の知識不足を痛感させられることでもありました。正直に言えば、書籍で語られている内容の一部は「よくわからないな...」と思いながら目を通しました。一方で、小難しい話によって「煙に巻かれている」という感覚もなく、著者の専門領域の語彙で、この内容を正確に表現しようとすると、このようなテキストになるのだな、という感想です。いつか化学および生物学の知識を仕入れ直して再挑戦したい本の一冊となりました。
それにしても、かつて『デザインされたギャンブル依存症』を読んだときは「効率よくゾーンに入りたい」という気持ちで本を手に取ったものでした。今回も「疲れ知らずになりたい」という気持ちであったわけですが、いつも「楽な道などない」と思わされる結果に終わります。中々うまくいかないものです。